今日は香織と智ではなく、天音君と寄り道をしてから帰った。
「ただいまー。」
「お帰りなせえ、お嬢!」
玄関で出迎えてくれたのはヤスさん。
そして、ヤスさんは何度か聞いたことのある台詞を口にした。
「お嬢、ご飯にします?お風呂にします?それとも・・・・・・俺?」
いつもは軽く流すけれど、今日の私は機嫌が良い。
楽しそうに言うヤスさんに、満面の笑みで答えてみた。
「じゃあ・・・・・・。ヤスさんで。」
「・・・・・・ええーーー?!!」
自分も冗談で言ってるくせに、どうして私が返すとそんなに驚くんだろう?
と思わなくもないけど、それと同時に、期待通りの反応だったと少しほくそ笑む。
「駄目なんですか?」
「いや、そんなことは・・・・・・!あ、いや、やっぱ駄目っす!!で、でも・・・・・・。」
「ヤースー・・・・・・?何してやがるんだ・・・・・・?」
そんなところに龍さん登場。
「ギャーーー!!若頭・・・・・・!!!」
「てめえ、今、お嬢に何言ってやがった・・・・・・?」
「えー、な、何のことっすかねー?俺にはさっぱり・・・・・・。」
「とぼけても無駄なんだよ!!」
「冗談っす、冗談!!」
「言っていい冗談と、悪い冗談があるだろうが!」
「でも!若頭だって冗談なら・・・・・・。」
「アホか!俺は本気だ!!」
「余計駄目じゃないっすか!」
「いいんだよ!」
散々ヤスさんと言い争ったあと、龍さんが爽やかな笑顔で私の方を向いた。
「お嬢・・・・・・。ご飯、お風呂、それとも・・・・・・、俺にしますか?」
「もちろん、龍さんで。」
「・・・・・・ええーーー?!!」
龍さんが顔を真っ赤にし、ヤスさんと全く同じ反応をする。
・・・・・・面白いなあ。
そこへ、今度は朝生さんが現れた。
「さっきから、うるさいぞ。大体、は私の婚約者だ。勝手に手を出さないで欲しいんだがな。」
「おい・・・・・・。勝手はどっちだ、朝生。お嬢が納得しねえ内から、婚約者面してんじゃねえって言っただろ!」
「だが、何も関係の無いお前たちが手を出すよりかは、私の方が道理にかなっていると思うが?」
「何だと・・・・・・?」
ああ、また始まったよ・・・・・・。本当、この2人は仲悪いんだから。
すると、今度は予想外の人物まで現れた。
「、お帰り。」
「あれ?灰谷先生!どうして、ここに?」
「この近くで武藤を拾ってな。悪いが、ここに運ばせてもらった。」
そう言った灰谷先生の後ろに、担任の武藤先生が相変わらずボーッとした表情で突っ立っていた。
「あ、。お帰り。」
武藤先生は私を見ると、優しく微笑んで、そう言ってくれた。
・・・・・・いや、そうじゃなくて。他に言うことがあるでしょ。
でも、この人にそんなことを言ったって無駄だと、諦めることにした。
「はい、ただいま、です。」
「は、オレを選んでくれるよね?」
「へ?何がです?」
「おそらく、あの話じゃないか?」
そう言って灰谷先生は未だ言い争いをしている、朝生さんと龍さんを指差した。
・・・・・・まだ続いてたんだ・・・・・・。
しかも、会話の内容もさっきと変わっていない。手を出すなとか、お嬢は俺を選んだとか・・・・・・。
「はあ・・・・・・。」
「。」
ため息を吐いた私に、灰谷先生が申し訳なさそうな顔で声をかけた。
先生は悪くないのに・・・・・・と思っていたら。
「俺では駄目か?」
先生もかー!!
「お、ちゃん。人気者だねえー。俺も混ぜちゃくれねえか?」
「喜多川さんまで?!」
一体、どうしたと言うんだ。どうして、こうもみんなが集まってるの?それはそれで、好都合なんだけど・・・・・・。
その前に。まずは2人の言い争いを止めさせなきゃ!
「朝生さんも龍さんも、いい加減にしてください!」
「お、お嬢・・・・・・。」
「・・・・・・元はと言えば、お前が軽々しい発言をした所為だろう。」
「お嬢を責めるんじゃねえ。大体、悪いのはヤス、てめえだろうが!!」
「冗談だって言ったじゃないっすかー・・・・・・!!」
「だから、冗談でも言うな!そんなこと!!」
「でも、若頭だってー・・・・・・!」
ああ、駄目だ・・・・・・。今度は3人に増えちゃった・・・・・・。
仕方なく、そっちは勝手に落ち着くことを期待して、喜多川さんに問いかける。
「ところで、今日はどうしたんですか?」
「ん?・・・・・・いやな。たぶん、ちゃんと同じ目的だと思うぜ。中身は違うだろうがなー。」
そう言って、喜多川さんは大きな紙袋を前に差し出した。
たしかに中身はわからないけど、私は納得して頷いた。
「そうですか。じゃ、喜多川さんも上がってください。」
「悪いねー。」
「いえいえ、どうぞ。」
私が笑顔で喜多川さんを迎え入れると、さっきまで眠そうだったり、優しく微笑んだりしていた武藤先生が、今度は少し不機嫌そうな顔をした。
「はオレよりも、そんなおっさんを選ぶの?」
ああ、そういえば、先生たちには、まだ声をかけてなかったと思い出す。
「いえ、武藤先生もぜひ。灰谷先生もどうぞ。」
そのとき、言い争っていた3人が、ようやくこっちに関心を戻してくれた。
「お、お嬢・・・・・・。それには、俺やヤスも入っているんでしょうか・・・・・・?」
「はい、もちろんです。朝生さんも、今日はみんなが居るから、って断ることは許しませんよ?」
「断る。」
「もう!言ったそばから!!」
「当然だ。他の奴らを誘う必要が無いだろう。」
「独り占めしちゃ駄目です。」
「そうっすよー!いくら朝生さんとは言え、お嬢を独り占めするなんて・・・・・・。」
うん、ヤスさん。そっちじゃないから。
「でも、全員の相手をするのは、お嬢も大変っすよねー?」
「そんな、相手をする、なんて・・・・・・。それに、みんなと一緒がいいんです。」
「えっ?!まさか、同時に?!それは、お嬢の体力が・・・・・・。」
さらに驚くヤスさん。・・・・・・何だか、話がかみ合っていないような。
って、それも当然か。まだ、私はちゃんと説明してなかったもんね。
それと同時に、“体力”という言葉で、私はずっと自分の後ろで待ってくれている天音君のことを思い出した。
「ゴメン、天音君。ずっと荷物持たせちゃって・・・・・・。」
「うん、平気。大丈夫だよ。」
「早く居間に行こう!」
「ありがとう。」
「私だって早く食べたいもん。」
「食べる・・・・・・?」
「お嬢が食べるんですか・・・・・・?」
「と言うより、みんなで食べるんだよ?」
ヤスさんと龍さんは一瞬顔が緩んだ後、今度は何だか慌てている。・・・・・・わかったのかな?
一方、朝生さんは完全に理解できたように、眼鏡を少し上げた。
「なるほど。そういうことか。ならば、やはり私は辞退させてもらう。」
「どうしてですか?わかったのなら、余計に参加したくなるでしょ?」
「なぜ、そんなくだらないことに・・・・・・。」
「いいじゃないですか、今日ぐらい。ね?」
「・・・・・・はあ・・・・・・。仕方ない。」
「やった!」
何だかんだ言って、朝生さんも弱いからね。
「それじゃ、みんなで居間に行きましょう!」
居間に着いてすぐ、天音君に持ってもらっていた箱を開ける。そして、その中身の一つを取り上げた。
「じゃあ、まずは天音君。一緒に買いに行ってくれて、ありがとう。はい。」
「僕は後でもいいのに。」
「いいの。天音君はここまで運んでくれたんだから。はい、どうぞ。」
「・・・・・・わかった。ありがとう、さん。」
そんなやり取りを見て、龍さんとヤスさんが唖然としている。
「ケーキ・・・・・・ですか?」
「はい。ハロウィン限定の物があったので、買って来たんです。それで、せっかくならみんなの分も、と思って。ちゃんと甘くない物も買ってありますので、龍さんはこれをどうぞ。」
「あ、ありがとうございます・・・・・・。」
「ヤスさんはこれでいいですか?」
「え?!あ、はい。ありがとうございます・・・・・・。」
「2人とも、あまり嬉しそうじゃないですね。やっぱり要りませんでしたか?」
「いえ!そんなことは・・・・・。な、ヤス!」
「当たり前っすよ!お嬢に貰って、嬉しくないわけないじゃないっすかー!」
「そうですか?何だか無理してるような・・・・・・。」
「そんなことないっすよー。ただ、ちょっと勘違いを・・・・・・。」
「勘違い?」
「おい、ヤス!!」
「あ、いや!何もないっす!」
「・・・・・・本当ですか?」
「ヤス!お前、余計なことを・・・・・・。」
「だってー・・・・・・。」
「さん。気にしなくていいと思うよ。」
「そう言われても・・・・・・。」
「早くみんなに渡して、早く食べたいんじゃなかったの?」
「う・・・・・・。たしかに。」
「僕も手伝うから。」
「ありがとう。」
天音君に言われ、私はケーキ配りを再開した。
・・・・・・天音君が渡している先では、お嬢に渡してもらいたかった、などという声が聞こえなくもないけど、気の所為だということにしておこう。
「はい、朝生さん。」
「お前・・・・・・。この金はどこから出ているんだ?」
「・・・・・・たまにはこういうのもいいじゃないですか!」
「誤魔化すな。」
「だ、大丈夫ですって!無理をしない範囲で買いましたから!」
「全く・・・・・・。」
朝生さんは少し呆れながら受け取った。
無理もないよね・・・・・・。当然、私の小遣いだけで、こんなに多く買えるわけがなく、組のお金も少しは使ってるんだから。
でも!本当に無理はしてないから!!だから、今日は許してください。
まあ、朝生さんも受け取ってくれたんだし、大目に見てくれたんだよね!
というわけで、次は先生たちに配ろう。
「武藤先生、はいどうぞ。」
「・・・・・・じゃなかったんだ。」
「?私ですけど・・・・・・?」
「うん、知ってる。」
「・・・・・・。もしかして先生、ケーキは要りませんでした?」
「食べる。」
「そうですか・・・・・・。」
武藤先生もよくわからないけど・・・・・・。この人がよくわからないのは、いつものことだ。
そう思って、今度は灰谷先生の方に差し出そうとすると、軽く止められてしまった。・・・・・・灰谷先生は要らなかったのかな?
「これはハロウィンのためなんだろう?」
「え、ええ。そうですよ。」
「じゃあ・・・・・・、trick or treat.・・・・・・言っておいた方が、雰囲気も出るだろう?」
「そうですね。では、あらためて。これ、どうぞ。」
「ありがとう。」
さすが、灰谷先生。時々、無愛想に見えるけれど、本当はすごく優しい人なんだよね。
私は気分も良くし、今度は喜多川さんの所へ向かう。
「遅くなりました。はい、喜多川さん。どうぞ。」
「ありがとよ。」
「そういえば、喜多川さんは何を持って来たんですか?」
「実は、店の関係で、こんな物を貰ってな。」
そう言って、喜多川さんが出した物は大きな大きな南瓜だった。
「わあ、すごい!!」
「だろ?せっかくだから、ちゃんにも見せてやろうと思って。」
「わざわざ、ありがとうございます!!」
「いやいや。ちゃんのその反応を見れただけで、俺は満足よ。」
こうして、ちょっとしたハロウィンパーティーは、私としては大満足だった。・・・・・・けど、これで終わりじゃなかった。
「お嬢・・・・・・。」
「どうしたんですか、ヤスさん?」
「仮装とか、しないんすか?」
「え?」
「だって、今日はハロウィンのため、だったんすよねー?じゃあ、お嬢の仮装も見たかったなあー。」
たしかに、ヤスさんの言うことには一理ある。でも、正直今日はケーキが目当てだったし・・・・・・。
「じゃあ、来年はみんなで仮装もしましょうか?」
「いいっすね!やりたいっす!」
「今年もやればいいじゃねえか!こんなこともあろうかと、これも持って来たぜ!」
喜多川さんが威勢よく取り出したのは・・・・・・。
「メ、メイド服・・・・・・。それは、ハロウィンに関係ないのでは・・・・・・。」
「仮装には違いないだろ?」
「はあ・・・・・・。それはそうですけど・・・・・・。」
「いいっすね!着てみましょうよ、お嬢!俺、見てみたいっす!」
「何言ってんだ、ヤス!!お嬢に何てことを・・・・・・!!」
「じゃあ、若頭は見なくていいんすかー?」
「それは・・・・・・その・・・・・・。見たい・・・・・・!!」
「でしょ?!」
「・・・・・・すいやせん、お嬢。俺からも頼みます・・・・・・!」
「・・・・・・。」
「止めましょうよ。さん、困ってるじゃないですか。」
「じゃあ、京吾は見なくていいんだな。」
「見なくていいってことはないですけど・・・・・・。大体、さっきさんも言ってたけど、ハロウィンと関係ないじゃないですか。それを無理に頼むのは・・・・・・。」
「じゃあ、何だったらいいんだよ?」
「モケーレ・ムベンベ。」
「無為先生?!」
「って言うか、武藤先生。何なんですか、それ・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・ナース服・・・・・・。」
「おい、灰谷!てめえ、今、小声で何つったー?!!」
「はあ・・・・・・、くだらん。私はもう戻るぞ。」
「いちいち、うるせえ野郎だな。勝手に戻ればいいだろ?」
「誰もお前に許可を貰おうなどとは思っていない。当然、誰の許可を得るわけでもないが、強いて言えば、私はに伝えただけなんだが?」
「何だと・・・・・・?」
私が黙っている間、またみんなが騒ぎ出した。・・・・・・まあ、それだけ盛り上がったんだと思い込んでおく。うん、このパーティーはやっぱり成功だったんだよ!・・・・・・たぶん。
まさかのハロウィン夢がこの作品ですみません(苦笑)。しかも、現在もプレイ中ですので、喜多川さんとか未攻略の状態です(滝汗)。・・・本当、ごめんなさい!!
でも、やっぱり買って良かったです。このゲーム、本当面白い。攻略後すぐにでも『恋恋三昧』をプレイしたいぐらいです(笑)。ってわけで、いずれ買います。
・・・いや、そんなことはどうでもよくて;;
とにかく、それほどテンションが上がっているので、うっかり書いてしまいました(笑)。念願の先生たちも書けて嬉しいです!スミスさんや山木さん、それに香織&智の2人も出したいぐらいでしたが、人数が多いとそれほど長くなってしまいますので・・・(苦笑)。
本当、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!!
('10/10/31)